■ 三つ物
三つ物とは前句に次の句が付き三番目の付け句で終わらせてしまうという、前句付けの次に短い連句です。
◇ 三つ物の付け句の例1
A 金の世の中こころの時代 冬男
B まぶしいな銀河鉄道ひた走る 治男
C パオの家では母子が眠る 朝子
(解説)
Aの「金の世の中こころの時代」冬男 という句に対して、こころの時代を受け、宮沢賢治の世界へ引き込みます。メルヘン
の世界です。そしてCはメルヘンの世界から銀河の良く見える大草原のモンゴルへ飛びパオの中で母子が眠っている−−と今
の世界、子供の世界へ引き戻されました。
◇ 三つ物の付け句の例2
季語の入った三つ物の例を上げます。
A(発句・三春・地理) 百済路や今とし匂う春の土 冬男
B(脇・三春・天象) チマチョゴリ消ゆ陽炎の中 章郎
C(第三・三春・植物、動物)ひらひらと菜の花化して蝶になり 澄子
A 立句(発句)が韓国の春の百済路を詠っています。
Bはそれを受けて韓国の「風俗」に属する民族衣装チマチョゴリ姿の女性が陽炎(春の天文の季語)の中へ消えてゆくという
ほんのりとした句が付きました。
Cは俳句の季語にある「菜の花化して蝶になる」という季語をすっかり句の中に入れ前句の陽炎の中に消えてゆく女性を蝶に
見立てたのです──連想の妙です。
◇ 三つ物の付け句の例3
無常の句からの展開
A(雑・無常) 昼会いし人夜は亡き骸に 冬男
B(雑) 切々と企業戦士の妻の手記
C(三夏・人事) 雫こぼして吊忍鳴る
Aは昼会ったばかりの人の訃報が夜届いたという人間の儚さが詠まれました。
B、その亡くなった人は仕事の鬼の企業戦士だったので、その妻が夫の手記を本にするとか。
C、AとBという前にある重たい雰囲気の句から逃げ出して、折から家の軒では、「吊忍」(つりしのぶ)=夏の季語=が
水をたっぷりと含んでぽたぽたと落ちていて風鈴がちりんと鳴って──と余情が出されました。
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